っちゃ駄目ですよ」
 帆村は何も応えなかったが、先に園長令嬢のトシ子と語ったときのことと、いま西郷副園長が冗談に紛《まぎ》らせて云ったこととを併《あわ》せて頭脳《あたま》の中で整理していた。この上は、鴨田という爬虫館の研究員に会うことが楽しみとなった。
「鴨田さんは、主任では無いのですか」
「主任は病気で永いこと休んでいるのです。鴨田君はもともと研究の方ばかりだったのが、気の毒にもそんなことで主任の仕事も見ていますよ」
「研究といいますと――」
「爬虫類《はちゅうるい》の大家です。医学士と理学士との肩書をもっていますが、理学の方は近々学位論文を出すことになっているので、間もなく博士でしょう」
「変った人ですね」
「いや豪《えら》い人ですよ。スマトラに三年も居て蟒《うわばみ》と交際《つきあ》いをしていたんです。資産もあるので、あの爬虫館を建てたとき半分は自分の金を出したんです。今も表に出ているニシキヘビは二頭ですが、あの裏手には大きな奴が六七頭も飼ってあるのです」
「ほほう」と帆村は目を円《まる》くした。「その非公開の蛇も検《しら》べたんですか」
「そりゃ勿論ですよ。研究用のものだからお
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