、その方へ帆村を案内して呉《く》れることになった。
 白い砂利の上に歩を運んでゆくと、どこからともなく風に落葉が送られ、カサコソと音をたてて転がっていった。もう十一月になったのだ。杜蔭《もりかげ》に一本《ひともと》鮮《あざや》かな紅葉《もみじ》が、水のように静かな空気の中に、なにかしら唆《そその》かすような熱情を溶《と》かしこんでいるようだった。帆村は、ちょっと辛い質問を決心した。
「園長のお嬢さんは、まだお独身《ひとり》なんですかねエ」
「え?」西郷氏は我が耳を疑うもののように聞きかえした。
「お嬢さんはまだ独身です。探偵さんは、いろんなことが気に懸《かか》るらしいですね」
「私も若い人間として気になりますのでね」
「こりゃ驚いた」西郷理学士は大きな身体をくねらせて可笑《おか》しがった。「僕の前でそんなことを云ったって構《かま》いませんが、鴨田君の前で云おうものなら、蟒《うわばみ》を嗾《け》しかけられますぜ」
「鴨田さんていうと、爬虫館の方ですね」
「そうです」と返事をしたが、西郷氏はすこし冗談を云いすぎたことを後悔した。「ありゃ学校時代の同級生なので、有名な真面目な男だから、からか
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