て、タンクの上半部がパクンと口を開いた。が、内部は同心管《どうしんかん》のようになっていて、鱶《ふか》の鰭《ひれ》のような大きな襞《ひだ》のついた其の同心管の内側が、白っぽく見えるだけで、中には何も入っていなかった。
「空虚《から》っぽだッ」
 誰かが叫んだ。
 鴨田研究員は第二のタンクの前へ、黙々として歩を移した。同じような操作がくりかえされたが、これも開かれた内部は、第一のタンクと同じく、空虚《から》だった。
 失望したような、そして又安心したような溜息が、どこからともなく起った。
 遂に第三のタンクの番だった。流石《さすが》の鴨田も、心なしか緊張に震える手をもって、スパナーを引いていった。
「ガチャリ!」
 とうとう最後の唐櫃《からびつ》が開かれたのだった。
「呀《あ》ッ!」
「これも空虚っぽだッ!」
 帆村は須永に目くばせをして彼一人、前に出た。彼の手には自動車の喇叭《らっぱ》の握りほどあるスポイトとビーカーとが握られていた。
 彼は念入りに、白い襞《ひだ》のまわりを獵《あさ》って、何やら黄色い液体をスポイトで吸いとり、ビーカーへ移していた。
 だがそれは大した量でなく、ほんの底を潤《うる》おす程度にとどまった。
 帆村は尚《なお》もスポイトの先で、弾力のある襞《ひだ》を一枚一枚かきわけ、検《しら》べていたが、
「呀ッ」
 と叫んで顔を寄せた。
「これだッ。とうとう見付かった」
 そう云って素早《すばや》く指先でつまみあげたのは長さ一寸あまりの、柳箸《やなぎばし》ほどの太さの、鈍く光る金属――どうやら小銃《しょうじゅう》の弾丸《たま》のような形のものだった。
 一同は怪訝《けげん》な面持で、帆村が指先にあるものを眺《なが》めた。帆村はその弾丸のようなものを鴨田の鼻先へ持っていった。
「貴方《あなた》はこれをご存知ですか」
 鴨田は腑《ふ》に落ちかねる顔付で、無言に首を振った。
「貴方はご存知なかったのですね」
 帆村はどうしたのか、ひどく歎息《たんそく》して云った。
「これはですね――」
 一同は帆村の唇を見つめた。
「――これは露兵《ろへい》の射った小銃弾《しょうじゅうだん》です。そして、これは三十日から行方不明になられた河内園長の体内に二十八年この方、潜《もぐ》っていたものです。云わば河内園長の認識標《にんしきひょう》なんです。しかも園長の身体を焼くとか
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