尤《もっと》も他《た》を求めて、どうにも解決の鍵が見つからぬときは開けもしましょうが、それにはちょっと準備が入ります。この爬虫たちを、元居た暖室《だんしつ》の方へ移すのですが、それにはあの室を充分なところまで温め、湿度を整《ととの》えてやらねばならんのです」
「弱ったな」帆村は苦い顔をした。「一体何時間あったら、別室の準備ができるのです」
「まア五時間か六時間でしょうね」
「そりゃ大変だ。じゃ私も暫く考えてみましょう」と帆村は断乎《だんこ》として云った。「その間に別の部屋を検べて来ましょう。西郷さん、調餌室というのを案内して下さい」
4
帆村は爬虫館の外へ出ると、チェリーに火を点《つ》けて、うまそうに吸った。
彼の観察したところでは、若《も》し鴨田《かもだ》に嫌疑《けんぎ》をかけるならば、鴨田は何かの原因で、河内園長を爬虫館に引摺《ひきず》りこみ、これを殺害して裸体《らたい》に剥《は》ぐと、手術台の上でバラバラに截断《せつだん》し、彼が飼育している蟒《うわばみ》に一部分喰わしてしまったのであろう。真逆《まさか》バラバラにしたとは気が付かなかったので、捜索隊も蟒の腹を見るには見たが、人間を頭から呑んでいる程の膨《ふく》れた腹をした蟒が居なかったので、それで安心していたものと思う。あの特殊装置というものの中には、きっと血染《ちぞめ》になった園長の服とか靴とかが隠匿されているのではなかろうか。万年筆は、園長を館の入口で絞《し》めあげるときに落ちたもので、それを後に何かの事情があって遺失品《いしつひん》として届けたものであろう。
しかし今横に並んで歩いている西郷副園長が、この万年筆について不審な行動を演《や》っているのにも気がつかないわけではない。第一に三十日の遺失品として届けられたものなら、直ぐにも疑って調べなければならないのが、今まで黙っていたし、一と目みれば園長のものだ位は判りそうなものを何故《なにゆえ》口を閉めていたのか、嫌な眼付で帆村を覗いたところと云い、ひょっとしたら西郷がすべてを画策《かくさく》し、嫌疑が鴨田にかかるように、わざと爬虫館の前に落して置いたのではあるまいか。園長殺害の方法も死体も判らぬが、原因は勤務上の怨恨《えんこん》又は、失恋でもあろう。そう思って西郷の横顔を見ると、どこやら悪人らしいところも無いでは無かった。
しかし
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