《うろこ》は、粘液《ねんえき》で気味のわるい光沢《こうたく》を放っていた。頭は存外《ぞんがい》に小柄で、眼を探すのに骨が折れたが、やっとのことで彫《ほ》りこんだような黄色い半開きの眼玉を見つけたときには、余りいい気持はしなかった。帆村たちの入って来たのが判ったものか、フフッ、フフッと、風に吹きつけられたように身体の一部を波うたせていたのだった。
こんなのが、裏手にはまだ六七頭もいるんだと思うと、生来《せいらい》蛇嫌いな帆村はもうすっかり憂鬱《ゆううつ》になってしまった。
そのとき奥の潜《くぐ》り戸《ど》をあけて、副園長の西郷が、やや小柄の、蟒《うわばみ》に一呑みにやられてしまいそうな、青白い若紳士を引張ってきた。
「ご紹介します。こちらがこの爬虫館《はちゅうかん》の鴨田研究員です」
二人は言葉もなく頭を下げた。
「園長の最後に此の室へ来られたときのことをお伺《うかが》いしたいのですが」
「今朝も大分警視庁の人に苛《いじ》められましたから、もう平気で喋《しゃべ》れますよ」と鴨田研究員は前提《ぜんてい》して「私は時計を見ない癖《くせ》なのでしてネ、正午《ひる》のサイレンからして、あれは多分十一時二十分頃だったろうと思うのですが、カーキ色の実験衣を着た園長が入って来られまして、そうです、二三分間だと思いますが、ここに出ている一頭のニシキヘビの元気が無いことから、食餌《しょくじ》の注意などを云って下すって其儘《そのまま》出てゆかれたんです」
「それは此の室だけへ入って来られたのですか、それとも」
「今の話は奥でしました。私は別にお送りもしませんでしたが、園長は確かにこの潜《くぐ》り戸《ど》をぬけて此の室へ入られたようです」
「表へ出られた物音でも聞かれましたか」
「いえ、別に気に止めていなかったものですから」
「なにか様子に変ったことでもありましたでしょうか」
「ありません」
「園長が表へ出られたと思う時刻から正午《ひる》までに、戸外に何か異様な叫び声でもしませんでしたか」
「そうですね。裏の調餌室へトラックが到着して、何だかガタガタと、動物の餌を運びこんでいたようですがね、その位です」
「ほほう」帆村は眼を見張《みは》った。「それは何時頃です」
「さあ、園長が出てゆかれて十五分かそこらですかね」
「すると十一時三十五分前後ですね。動物の食うものというと、随分|嵩張《
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