いる。すぐ後にいるあたしにも気がつかない。機会《チャンス》!
「ええいッ!」
ドーンと夫の腰をついた。不意を喰らって、
「なッ何をする、魚子《うおこ》!」
と、夫は始めてあたしの害心《がいしん》に気がついた。しかし、そういう叫び声の終るか終らないうちに、彼の姿は地上から消えた。深い空井戸の中に転落していったのだ。懐中電灯だけが彼の手を離れ、もんどり打って草叢に顎《あご》をぶっつけた。
(やっつけた!)と、あたしは俄《にわ》かに頭がハッキリするのを覚えた。(だが、それで安心出来るだろうか)
「とうとう、やったネ」
別な声が、背後《うしろ》から近づいた。松永の声だと判っていたが、ギクンとした。
「ちょっと手を貸してよ」
あたしは、拾ってきた懐中電灯で、足許《あしもと》に転がっている沢庵石《たくあんいし》の倍ほどもある大きな石を照した。
「どうするのさ」
「こっちへ転がして……」とゴロリと動かして、「ああ、もういいわよ」――あとは独りでやった。
「ウーンと、しょ!」
「奥さん、それはお止しなさい」と彼は慌《あわ》てて停めたけれど、
「ウーンと、しょ!」
大きな石は、ゴロゴロ転がりだ
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