帆村の話に聞き入った。
「この壺は博士のベッドだったんです。その整理形体に最も適したベッドだったんです。ところで、こんな身体で、どうして博士は往来を闊歩《かっぽ》されたか。いまその手足をごらんに入れましょう」
帆村は立って、壺の載っていた卓子《テーブル》の上に行った。そして台の中央部をしきりに探していたが、やがて指をもって上からグッと押した。するとギーッという物音がすると思うと、卓子の中からニョキリと二本の腕と二本の脚が飛び出した。それは空間に、博士の両腕と両脚とを形づくってみせた。
「ごらんなさい。あの壺の蓋が明いて、博士の身体がバネ仕掛《じか》けで、この辺の高さまで飛び出して来たとすると、電磁石の働きで、この人造手足がピタリと嵌《はま》るのです。しかしこの動作は、博士が壺の底に明いている穴から、卓子《テーブル》の上の隠し釦《ボタン》を押さねばなりません。押さなければ、この壺の蓋も明きません。博士が餓死をされたのは、睡っているうちにこの壺が卓子《テーブル》の上から下ろされた結果です」
一座は苦しそうに揺《ゆら》いだ。
「しかし博士は、何かの原因で精神が錯乱せられた。そしてあの兇行
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