配を感じた。
 と、いきなりカタカタと、揺《ゆ》れだしたものがあった。
「あッ。壺だ!」
 卓子《テーブル》の上から、床の上に下ろされた壺が、まるで中に生きものが入っているかのように、さも焦《じ》れったそうに揺れている。何か、入っているのだろうか。入っているとすると、猫か、小犬か、それとも椰子蟹《やしがに》ででもあろうか。いよいよこの家は、化物屋敷になったと思い、カタカタ揺り動く壺を、楽しく眺め暮した。なにしろ、それは近頃にない珍らしい活動玩具《かつどうおもちゃ》だったから。その日も暮れて、また次の日になった。壺は少し勢《いきおい》を減《げん》じたと思われたが、それでも昨日と同じ様に、ときどきカタカタと滑稽《こっけい》な身振《みぶり》で揺らいだ。
 夫はもう帰って来そうなものと思われるのに、どうしたものか、なかなか姿を見せなかった。あたしはお腹《なか》が空いて、たまらなくなった。もう自分の身体のことも気にならなくなった。ただ一杯のスープに、あたしの焦燥《しょうそう》が集った。
 四日目、五日目。あたしはもう頭をあげる力もない。壺はもう全く動かない。そうして遂に七日目が来た。時間のことは
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