解剖室からすこし離れたところに、麻雀卓《マージャンたく》をすこし高くしたようなものがあって、その上に寒餅《かんもち》を漬《つ》けるのに良さそうな壺《つぼ》が載せてあった。
「こんなものがある!」
「なんだろう。……オッ、明かないぞ」
捜査隊員はその壺を見つけて、グルリと取巻いた。床の上に下ろして、開けようとするが、見掛けによらず、蓋がきつく閉まっていて、なかなか開かない。
「そんな壺なんか、後廻しにし給え」と部長らしいのが云った。刑事たちは、その言葉を聞いて、また四方《しほう》に散った。壺は床の上に抛《ほう》り出されたままだった。
「どうも見つからん。これア犯人は逃げたのですぜ」
彼等はたしかにあたしたち夫婦を探しているものらしい。あたしは何とかして、此処《ここ》にいることを知らせたかったが、重い鎖につながれた俘囚は天井裏の鼠ほどの音も出すことが出来なかった。そのうちに一行は見る見るうちに室を出ていって、あとはヒッソリ閑《かん》として機会は逃げてしまったのだ。
それにしても、夫は何処に行ったのだろう。
「オヤ、なんだろう?」あたしはそのとき、下の部屋に、なにか物の蠢《うごめ》く気
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