は、暗がりの中で笑った。「おれの計画しているものはそんなことじゃない。見ようと見まいと、そのうちにハッキリ、お前はそれを感じることだろう!」
「では、あたしに何を感じさせようというのです」
「それは、妻というものの道だ、妻というものの運命だ! よく考えて置けッ」
 夫はそういうと、コトンコトンと跫音をさせながら、この天井裏を出ていった。

 それから天井裏の、奇妙な生活が始まった。あたしは、メリケン粉袋《こぶくろ》のような身体を同じところに横《よこた》えたまま、ただ夫がするのを待つより外なかった。三度三度の食事は、約束どおり夫が持って来て、口の中に入れてくれた。あたしは、両手のないのを幸福と思うようになった。手がないばかりに、鼻が二つあり、おまけに唇が四枚もある醜怪な自分の顔を触らずに済んだ。
 用を達すのにも困ると思ったが、それは医学にたけた夫が極めて始末のよいものを考えて呉れたようだった。その代り、或る日、注射針を咽喉のあたりに刺《さ》し透《とお》されたと思ったら、それっきり大きな声が出なくなった。前とは似ても似つかぬ皺《しわ》がれた声が、ほんの申し訳に、喉の奥から出るというに過ぎ
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