」
「飲まなきゃ、滋養浣腸《じようかんちょう》をしよう。注射でもいいが」
「ひと思いに殺して下さい」
「どうして、どうして。おれはこれから、お前を教育しなければならないのだ。さア、横になったところで、一つの楽しみを教えてやろう。そこに一つの穴が明いている。それから下を覗《のぞ》いてみるがいい」
覗き穴――と聞いて、あたしは頭で、それを急いで探した。ああ、有った、有った。腕時計ほどの穴だ。身体を芋虫のようにくねらせて、その穴に眼をつけた。下には卓子《テーブル》などが見える。夫の研究室なのだ。
「なにか見えるかい」
云われてあたしは小さい穴を、いろいろな角度から覗いてみた。
あった、あった。夫の見ろというものが。椅子の一つに縛りつけられている化物のような顔を持った男の姿! 着ているものを一見して、それと判る人の姿――ああ、なんと変わり果てた松永青年! あたしの胸にはムラムラと反抗心が湧きあがった。
「あたしは、あなたの計画を遂げさせません。もうこの穴から、下を覗きませんよ。下を見ないでいれば、あなたの計画は半分以上、効果を失ってしまいます」
「はッはッはッ、莫迦《ばか》な女よ」と、夫
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