も切ってしまったのネ。ひどいひと![#「ひと」に傍点] 悪魔! 畜生!」
「切ったところもあるが、殖《ふ》えているところもあるぜ。ひッひッひッ」
 殖えたところ? 夫の不思議な言葉に、あたしはまた身慄《みぶる》いをした。あたしをどうするつもりだろう。
「いま見せてやる。ホラ、この鏡で、お前の顔をよく見ろ!」
 パッと懐中電灯が、顔の正面から、照りつけた。そしてその前に差し出された鏡の中。――あたしは、その中に、見るべからざるものを見てしまった。
「イヤ、イヤ、イヤ、よして下さい。鏡を向うへやって……」
「ふッふッふッ。気に入ったと見えるネ。顔の真中に殖えたもう一つの鼻は、そりゃあの男のだよ。それから、鎧戸《よろいど》のようになった二重の唇は、それもあの男のだよ。みんなお前の好きなものばかりだ。お礼を云ってもらいたいものだナ、ひッひッひッ」
「どうして殺さないんです。殺された方がましだ。……サア殺して!」
「待て待て。そうムザムザ殺すわけにはゆかないよ。さア、もっと横に寝ているのだ。いま流動食を飲ませてやるぞ。これからは、三度三度、おれが手をとって食事をさせてやる」
「誰が飲むもんですか
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