ところ、僕は君の化粧台の鏡の中に、世にも醜い男の姿を発見したのだ! これ以上は、書くことを許して呉れ。
そして最後に一言祈る。君の身体の上に、僕の遭ったような危害の加えざらんことを。
松永《まつなが》哲夫《てつお》」[#この行は下揃え一字上げ、名前の部分は一字毎に空きあり]
この手紙を読み終って、あたしは悲歎《ひたん》に暮れた。なんという非道《ひど》いことをする悪漢だろう。銀行の金を盗み、番人を殺した上に、松永の美しい顔面を惨《むご》たらしく破壊して逃げるとは!
一体、そんなことをする悪漢は、何奴《なにやつ》だろうか。手紙の中には、犯人は松永を目標とする者だと思うと、書いてあった。松永は何をしたというのだ?
「ああ、やっぱりあれ[#「あれ」に傍点]だろうか? そうかも知れない。……イヤイヤ、そんなことは無い。夫はもう、死んでいるのだ。そんなことが出来よう筈がない」
そのときあたしは、不図《ふと》床《ゆか》の上に、異様な物体を発見した。ベッドから滑り下りて、その傍へよって、よくよく見た。それは茶褐色の灰の固《かた》まりだった。灰の固まり――それは確かに見覚えの
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