《くもん》のために気が変になりそうだ、恐ろしかった。あの重い鉄蓋が持ち上がるものだったら、あたしは殺した夫の跡を追って、井戸の中に飛びこんだかも知れない。
喚《わめ》き、悶え、暴《あば》れているうちに、とうとう身体の方が疲れ切って、あたしはベッドの上に身を投げだした。睡ったことは睡ったが、恐ろしい夢を、幾度となく次から次へと見た。――不図《ふと》、その白昼夢《はくちゅうむ》から、パッタリ目醒《めざ》めた。オヤオヤ睡ったようだと、気がついたとき、庭の方の硝子窓《ガラスまど》が、コツコツと叩かれるので、其の方へ顔を向けた。
「ああ、――」あたしは、思わず大声をあげると、その場に飛んで起きた。なぜなら、庭に向いた窓の向うから、しきりに此方《こっち》を覗きこんでいる者があった。その円い顔――紛《まぎ》れもなく、逃げたとばかり思っていた松永の笑顔だった。
「マーさん、お這入《はい》り――」
「どうして昨夜《ゆうべ》は来なかったのさア」
嬉しくもあったけれど、相当口惜しくもあったので、あたしはそのことを先《ま》ず訊《たず》ねた。
「昨夜は心配させたネ。でもどうしても来られなかったのだ、エライこ
前へ
次へ
全35ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング