とが起ってネ」
「エライことッて、若い女のひとと飯事《ままごと》をすることなの」
「そッそんな呑気《のんき》なことじゃないよ。僕は昨夜、警視庁に留められていたんだ。そして、いまから三十分ほど前に、釈放《しゃくほう》になったばかりだよ」
「ああ、警視庁なの!」
あたしはハッと思った。そんなに早く露見《ろけん》したのかなア。
「そうだ、災難に類する事件なんだがネ」と彼は急に興奮の色を浮べて云った。「実はうちの銀行の金庫室から、真夜中に沢山の現金を奪って逃げた奴があるんだ。そいつが判らない。その部屋にいる青山金之進《あおやまきんのしん》という番人が殺されちまった。――そして不思議なことに、その部屋に入るべきあらゆる入口が、完全に閉じられているのだ。穴といえば、その室《へや》にある送風機の入口と、壁の欄間《らんま》にある空気窓だけだ。空気窓の方は、嵌《は》めこんだ鉄の棒がなかなかとれないから大丈夫。もう一つの送風機の穴は、蓋があって、これが外《はず》せないことはないが、なにしろ二十センチそこそこの円形《まるがた》で、外は同じ位の大きさの鉄管で続いている。二十センチほどの直径のことだから、どん
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