をちらりとうごかすと、すぐ手をのばして受話機をとった。そしてそれを耳にあてた。
「うむ、聞えることは聞えているが、これはまたばかに弱いね」
そういって局長は、受話機をとると、慣《な》れた手つきで、そのうえに鉛筆を走らせた。これが居睡《いねむり》から覚めたばかりの人であろうかと疑問がおこるほど、局長は、極めて敏捷《びんしょう》に、事をはこんだ。
「おい、丸尾、すぐ方向を測りたまえ」
「はあ、方向を測ります」
ぼんやり立っていた丸尾は、ここでやっと正気《しょうき》にかえって、命ぜられた方向探知器にとりついた。
甲板《かんぱん》のうえに出ている枠型空中線《わくがたくうちゅうせん》の支柱を、把手《ハンドル》によってすこしずつ廻していると、電波がどっちの方向から来ているか分る仕掛《しかけ》になっていた。これは学校時代から丸尾の得意な測定だったので、自信をもってやった。生憎《あいにく》入っている信号は、息もたえだえといいたいほど微弱であったが、彼は懸命にそれを捉《とら》えた。その微弱な信号に、死に直面した夥《おびただ》しい生命が托《たく》されているのだ。
「どうだい、方向はとれたか」
「はい
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