大切にしろ。銃は一挺しかないんだからな」
古谷無電局長は、探険隊長を命ぜられて、たいへんなはりきり方だ。彼は可愛がっていた丸尾技士のためにも、すすんでこの探険隊に加わりたいところだったのだ。
「さあ、用意はできたね。では探険隊出発! 漕《こ》げ! お一チ、二イ、お一チ、二イ」
古谷局長の指揮のもとに、ボートは大雨の中を矢のように波頭をつらぬいてすすむ。そのとき幽霊船はと見れば、嵐の中にまるで降りとめられたようにじっとうごかない。巨象が行水《ぎょうずい》しているようでもある。船体からは、例の青白い燐光《りんこう》がちらちらと燃《も》えている。さすがにものすさまじい光景で、櫂をにぎるわが勇士たちの腕も、ちょっとにぶったように見えたが、それも無理のないことであった。
「おい、しっかり漕げ! 生命《いのち》の惜しい奴は、今のうちに手をあげろ。すぐ一号艇へ戻してやる」
もちろん誰も手をあげる者はいない。えいやえいやと、また懸《か》け声《ごえ》がいさましくなった。
「そこだ。しっかり漕げ。貝谷、銃を構えていろ。――そこでこのボートを幽霊船の船尾にぶらさがっている縄梯子《なわばしご》の下へつけ
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