士は、頭にかけた受話器をちょっと手でおさえて返事をした。
古谷局長は大きく肯《うなず》くと、チョッキのポケットから時計をひっぱりだして見て、
「ふむ、もう零時半だ。新聞電報も報時信号もうけとったし、今夜はもう電信をうつ用も起らないだろうから、器械の方にスイッチを切りかえて、君も寝ることにしたまえ」
器械というのは、警急自動受信機《けいきゅうじどうじゅしんき》のことである。これをかけておくと、無電技士が受話器を耳に番をしていなくても、遭難の船から救いをもとめるとすぐ器械がはたらいて、電鈴《でんりん》が鳴りだす仕掛《しかけ》になっているものだ。この器械の発明されない昔は、必ず無電技士が一人は夜ぴて起きていて、救難信号がきこえはしないかと番をしていなければならなかったのである。今は器械ができたおかげで、ずいぶん楽になったわけである。
「じゃあ局長、警急受信機の方へ切りかえることにいたします」
「ああ、そうしたまえ。僕も、すこし睡《ねむ》くなったよ」
丸尾は、配電盤にむかって、一つ一つスイッチを切ったり入れたりしていった。間違《まちが》えてはたいへんなことになる。
彼は、念には念を入れ
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