は、いまやいつ戦争が勃発《ぼっぱつ》するかわからないので、びくびくもので太平洋を渡っている有様だった。
 ここに和島丸《わじままる》という千五百トンばかりの貨物船が、いま太平洋を涼しい顔をして、航海してゆく。目的地は南米であり、たくさんの雑貨類をいっぱいに積みこんでいる。そのかえりには鉱物と綿花《めんか》とをもってかえることになっているのだった。この物語は、その和島丸の無電室からはじまる。――
 ちょうど時刻は、午前零時三十分。
 無電機械が、ところもせまくぎっちりと並んだこの部屋には、明るい電灯の光のもとに、二人の技士が起きていた。
 一人は四十を越した赤銅色《しゃくどういろ》に顔のやけたりっぱな老練《ろうれん》な船のりだった。もう一人は、色の白い青年で、学校を出てからまだ幾月にもならないといった感じの若い技士だった。
「おい丸尾《まるお》、なにか入るか」
 年をとった方は、籐椅子《とういす》に腰をおろして、小説を読んでいたが、ふと眼をあげて、若い技士によびかけた。和島丸の無電局長の古谷《ふるや》だ。
「空電ばかりになりました。ほかにもうなにも入りません」
 と、丸尾とよばれた若い技
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