ぎ》ることができるようになった。
「もうすこし布《きれ》があれば帆が作れるんだがなあ」
「だめだよ、どっちへいっていいかわからないのに、帆を作ったって仕様《しよう》がないじゃないか」
 そんなことをいいあうのも、日蔽いのおかげで、船員たちが元気になった証拠であった。
 それは正午に近いころだった。
 貝谷という船内で一番元気な男が、とつぜん大声でわめいた。
「おい、ボートだ! あそこにボートが浮いている」
「えっ、ボートか」
「和島丸のボートだろうか。どこだ、どこに見える」
 貝谷は、小手をかざして、東の方を指さした。
 今までなぜ気がつかなかったと思うくらい、手近かなところに一隻《いっせき》のボートが、うかんでいた。
「おーい、和島丸のボート」
「おーい、一号艇はここにいるぞ」
 一号艇の乗組員たちは、こえをかぎりに喚《わめ》き、そしてせっかく張った日蔽いをはねのけながら手をふった。
「へんだな、応答をしないじゃないか。こっちの呼んでいるのに気がつかないのかしらん」
 そのとき、佐伯船長がいった。彼は望遠鏡を眼にあてていた。
「なるほど、これはおかしい。ボートのうえには櫂《かい》が見
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