黒いリボンは、お葬式のときにだけつかう不吉《ふきつ》なものだった。その不吉な黒リボンが花輪にむすびつけてあるのだから、佐伯船長以下一同がいやな顔をしたのも無理ではない。
「ほう、まだなにか書いたものがつけてある」
 佐伯船長は、函の底に、一枚のカードがおちているのをつまみあげた。
 見ると、そとには妙な字体の英語でもって、
「コノ花輪ヲ、ヤガテ海底《かいてい》ニ永遠《えいえん》ノ眠リニツカントスル貴船乗組《きせんのりくみ》ノ一同ニ呈ス」
 と書いてある。なんというひどい文句だろう。これを読むと、お前の船にのっている者は、みんな海底に沈んでしまうぞという意味にとれる。
「け、けしからん」
 見ていた船員たちは、拳《こぶし》をかためて、怒りだした。
 だが、さすがに佐伯船長は、怒るよりも前に、和島丸の危険を感づいた。
「おい、みんな。これは遭難の前触《まえぶ》れに決った。お前たちは、すぐ部署《ぶしょ》につけ。おい事務長|銅羅《どら》をならして、総員配置につけと伝達しろ」
 船長のこえは、疳《かん》ばしっていた。
 さあたいへんである。船長の言葉が本当だとすると、もうすぐなにごとか災難がこ
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