没させたのち、海面にうきあがって、面白そうにこっちの遭難ぶりを見物しているとき、いきなり横合《よこあい》から、機関の停っているこのボルク号が、音もなく潜水艦のうえにのりあげた――と、考えているのです。そんなことがあれば、潜水艦は直ちに沈没してしまいます。ボルク号の舳は、そのときに、大破したのではないでしょうか。なにしろ、その後、一度も怪潜水艦の姿は、現われないのですからねえ」
「なるほど。たしかに一つの答案になっているねえ」と、佐伯船長は、微笑した。
「さあ、そこで、われわれは、このボルク号の無電《むでん》を借りて、救援信号を打つことにしよう。それから、燐《りん》で青く光る甲板《かんぱん》も、しばらくこのままにして置こう。そうでもしなければ、誰もこの大事件のあったことを信用しないだろうからね」
佐伯船長は、いつの間にか、ボルク号の船長として、生残りの船員にきびきびした命令を下しはじめたのであった。
底本:「海野十三全集 第9巻 怪鳥艇」三一書房
1988(昭和63)年10月30日第1版第1刷発行
初出:不詳
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2004年3月5日作成
2009年7月31日修正
青空文庫作成ファイル:
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