するとそのとき、古谷局長が、
「船長、あれについて、私は一つの考えをもっているのですが……」
「そうかね、どういう考えか」
「あれは、わが和島丸を雷撃した怪潜水艦がつかった囮《おとり》だと思います」
「それは至極同感《しごくどうかん》だね」と、船長は、賛意を表しました。
「その怪潜水艦は、ボルク号を狙っていたのだと、私は想像しています」
「え、ボルク号を……」
「そうです。ボルク号が、その附近を通りかかるのを狙っていたところ、その前にボルク号は、あの猛獣さわぎをひきおこしたわけです。そしてボルク号の機関は停るわ、折からの台風に翻弄《ほんろう》されたわけで、幽霊船とばけてしまい、怪潜水艦が仕掛けたあの怪電もボルク号には伝わらず、かえって、わが和島丸がその怪無電を傍受して、現場《げんじょう》にかけつけたためボルク号に代って、こっちが魚雷を喰ったというわけではないかと考えますが、いかがでしょう」
 古谷局長は、なかなか面白い説をはいた。
「なるほどねえ、それはなかなか名説だ。いや、全く、古谷君のいうとおりかもしれない。すると、われわれは、とんだ貧乏くじを背負いこんだわけだね」
 船長は、一同の顔を、ぐるっと見まわした。そのとき貝谷が、口を出した。
「船長。その怪潜水艦というのは、どこの国の潜水艦なんでしょうか」
「さあ、わからないね」
「イギリスの潜水艦じゃないですかな。アメリカを参戦させようというので、わざと南太平洋などで、あばれてみせたのではないでしょうか」
「それは、なんとも、いえない」と船長は自重して唇をとじた。
「私は、どこかで、その潜水艦をみつけてやりたい。そして、大いに恨《うら》みをいってやらなきゃ、気がすまない。いや、こうしているうちに、今にも、怪潜水艦は、附近の海面に浮び上がってくるかもしれないぞ」
「貝谷。お前は、その潜水艦に、ついにめぐりあえないかもしれない」
「え、なぜですか、古谷局長」
「私は、この船をしらべているうちに、こういう考えが出た。それは、かの怪潜水艦はわれわれの和島丸を沈没させた前後に、かの潜水艦も沈没したのだと想像している」
「局長。君はなかなか想像力がつよい。しかしまさかね」
「いや、船長、このボルク号の艦首は、ひどく壊《こわ》れているのです。舳《へさき》のところに何物かをぶっつけた痕《きず》があります。私は、怪潜水艦が和島丸を沈
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