、とれました。ほぼ南南東微東《なんなんとうびとう》です」
「なに、南南東微東か」
 局長は受話機を下において、急な口調《くちょう》でいった。
「さあ、すぐ船長に報告だ。電話をしたまえ」
 丸尾は、交換台の接続を終ると、呼出信号を鳴らしつづけた。しかし船長室の受話機が取りあげられるまでには、かなりの時間がかかった。
「船長が出ました」
「おうそうか」
 局長は紙片を手にとって、マイクに近づき、
「船長、ただ今SOSを受信いたしました。遺憾《いかん》ながら電文の前の方は聞きもらしましたので途中からでありますが、こんなことを打ってきました。“――船底《ふなぞこ》ガ大破シ、浸水《しんすい》ハナハダシ。沈没マデ後数十分ノ余裕シカナシ。至急救助ヲ乞ウ”というのです」
「どこの汽船かね。そして船名はなんというのかね」
 船長が、聞きかえした。
「それがどうもよくわかりません。“船名ハ――”とまでは、打ってきましたが、そのあとは空文《くうぶん》なんです。符号がないのです。どうも変ですね。なぜ船名をいわないのでしょうか」
「ふーむ」と船長は呻《うな》っていたが、
「ひょっとすると、どこかの軍艦かもしれない。さもなければ海賊船か。――で、その遭難の位置は、一体どこなのか」
「その位置は不明です。もっともSOSの電文のはじめに打ったのかもしれませんが、聞きのがしました。なにしろ電源がよわっているらしく、電信はたいへん微弱で、とうとう途中で聞えなくなってしまったのです」
「位置が分らんでは、救いにいけないじゃないか」
「はあ、そうです。そこでさっき、丸尾にSOSを発信している船の方向を測《はか》らせました」
「ほう、それはいい。で方向は出たかね」
「南南東微東と出ました」と答えると、
 船長は、ちょっと言葉をとめて考えこんでいたが、
「よろしい。では、これから針路をその南南東微東に向け、全速力で走ってみることにしよう。なお今後の信号に注意したまえ」
 そこで船長の電話は切れた。
 間もなく船が、ぐっと舳《へさき》をまげたのが感じられた。エンジンは、急に呻りをまして、今や全速力で、謎の遭難地点さして進んでゆくのであった。


   現場《げんじょう》附近


 いい気持で、睡っていた船員や火夫《かふ》達は、一人のこらず叩《たた》き起され、救助隊が編成せられ、衛生材料があるだけ全部船長室に並べ
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