技士も、やっぱり猛獣に喰われてしまったというわけですかね」
 古谷局長は、顔こそ知らないが、自分と同じ職にあったこの汽船の無電技士の哀れにも恐ろしい運命に対して、深く同情した。
「局長、あれをごらんなさい。赤い豆電灯が点《つ》いたり消えたりしています」
「どれ、どこだ」
 と、局長はびっくりして貝谷の指す方をみた。壊れて床に倒れている器械の配電盤の上に、赤い監視灯が点《つ》いたり消えたりしているではないか。
「おやッ、この汽船には、まだ誰か生きている者があるんだな」


   意外な生存者


 古谷局長は、貝谷をうながし、扉をうちやぶって船内へはいった。船内は、暗かった。
「おい、中にはいっている奴、こっちへ出てこい!」
 古谷局長は、英語でどなった。洞《ほこら》のような船内に、こえは、がーんと、ひびきわたる。
 中からは、返事がなかった。
「出てこなければ、撃つぞ。――もうあきらめて、降参しろ!」
 局長は、もう一度、どなった。しかし、中からは、だれもでてくるものがなかった。
「おかしいじゃないか、貝谷」と、局長は、貝谷をかえりみていった。
「そうですなあ」と、貝谷は思案をしていたが、
「じゃあ、私がどなってみましょう」そういって貝谷は、大音声《だいおんじょう》をあげ、
「こら、いのちが惜しければ、出てこいというんだ。出てこなければ、鉄砲をぶっぱなすぞ!」
「おいおい貝谷。日本語が、外国人にわかるものか」
「いや、私は大きな声を出すときには、日本語でなくちゃあ、だめなんです」
 そういっているとき、暗《くら》がりの向うから、わーッと、とびだしてきたものがあった。
「ほら、出てきやがった!」
 と局長以下の隊員は、銃をかまえた。怪しい奴なら、ただ一発のもとに撃ちとめるつもりだ。
「おお古谷局長!」暗がりからとびだしてきた相手は、意外にも、日本語で叫んだ。
「だ、だれだッ」
「丸尾です!」
「えっ、丸尾?」
 ぼろぼろのズボンをはいて現れた人間。それはやつれ果《はて》てはいるが、丸尾技士だった。
「おお、丸尾だ。丸尾の幽霊だ。お前は、浮かばれないと見えるな」と、貝谷は叫んだ。
「幽霊? ばかをいうな。おれは、ちゃんと生きているぞ。生きている丸尾だ」
「ははあ、幽霊ではなかったかな、なるほど」
 貝谷は、丸尾の身体を、気味わるげにさわってみて、感心したり、よろこんだり
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