して本格的な実験を積みかさねていく必要があると痛感《つうかん》したことであった。
隆夫《たかお》のメモ
呼鈴《よびりん》が鳴ったので、玄関のしまりをはずして硝子《ガラス》戸を開いた隆夫の母親は、びっくりさせられた。意外にも、夫と隆夫とが、門灯の光を浴び、にこにこして肩を並べていたからだ。
治明博士は、靴をぬぎながら、さっそく、長いいきさつとその信ずべき根拠について、夫人に語りはじめた。その話は、茶の間へ入って、博士の前におかれた湯呑《ゆのみ》の中の茶が冷えるまでもつづいたが、隆夫の母親には、博士の話すことがらの内容が、ちんぷんかんぷんで、さっぱり分からなかった。だが、母親は、今夜のめでたい出来事が分らないのではなかった。かわいい隆夫が、前の状態から抜けて、元の隆夫に戻っていることを、隆夫の話しぶりや目の動きで、すぐそれと悟った。隆夫が元のように戻ってくれれば、それだけで十分であった。どうして隆夫が変り、どうして隆夫が癒《なお》ったか、そんな理屈《りくつ》はどうでもよかったのである。夜は更けていたが、親子三人水入らずの祝賀《しゅくが》の宴がそれから催《もよお》された。隆
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