ろく乾からびた貧弱《ひんじゃく》きわまる身体であった。聖者の顔も一変して、猿の骸骨《がいこつ》のようになっていた。聖者の身体はすーッと宙に浮いた。と見る間に、聖者の身体は瞬間《しゅんかん》金色に輝いた。が、その直後、聖者の身体は煙のように消え失せてしまった。
聖者《せいじゃ》の声
この奇怪なる出来事の間、場内は墓場《はかば》のようにしずまりかえっていた。
また、治明博士は、この間、目は見え、耳は聞えるが、ふしぎに声が出ず、五体は金しばりになったように、舞台の上の肘かけ椅子の上に密着していて、動くとができなかった。ただ、その間に、博士は天の一角《いっかく》からふしぎな声を聞いた。
「……汝の願いは、今やとげられた。汝の子の肉体から、呪《のろ》われたる霊魂は追放《ついほう》せられ、汝の子の霊魂がそれにかわって入り、すべて元のとおりになった。これで汝は満足したはずである。さらば……」
その声! その声こそ、聖者アクチニオ四十五世の声にちがいなかった。
「ははあ。かたじけなし」
と治明博士は心の中に感謝を爆発させて、アクチニオ四十五世の名をたたえた。そのときに、高き空間を
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