す。そしてぼくは名津子さんと、ここに住みます』と宣言したというではございませんか。いくら顔見知りの青年であっても、こんなあつかましいことをいって、しかもそれを目の前で実行してみせる心臓っぷりには、お母さまが卒倒なすったというのも無理ではありません。
 それ以来、隆夫はあのお家から離れないのです。誰から何といわれようと、隆夫はすこしも気にしていないらしく、にやにや笑うだけで言葉もかえさず、その代り、忠実な番犬のように名津子さんのそばから離れないのです。しかしふしぎなことに、名津子さんの病気は、ぴったりと癒《なお》ってしまいました。前のようにちゃんとおとなしくなり、いうこともへんではなくなりました。二人の仲は、たいへんいいのです。そのかわり、この事件のてんまつは世間にひろがり、すごい評判になりました。もちろん隆夫は、退校|処分《しょぶん》にされました。でも隆夫は平気でいます。今の今も、わたくしは隆夫の気持が分らないで、悩んでいるのでございます」
 隆夫の母親は目頭《めがしら》をおさえた。


   公開実験の日


 ある日、治明博士は、困った顔になって、電波小屋《でんぱごや》へはいって来
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