まあ、無事に帰って来られたものだ」
「やってみれば、機会をつかむ運にも出会うわけですね」
 親子は、休むひまもなく自動車を雇って、そこから山越えをして四十五キロ先にある大きな都市へ潜入《せんにゅう》した。汽車の便はあったのであるが、それは避《さ》けた。
 三日ほど身体を休ませたのち、いよいよ親子は東京へ向った。
 これからがたいへんであった。親子の間には、ちゃんと打合わせがついているものの、果してそのとおりうまく行くかどうか分らなかった。もしどこかで尻尾《しっぽ》をおさえられたが最後、えらいさわぎが起るにちがいなかった。ことに隆夫は、むずかしい大芝居を演《えん》じおおせなくてはならないのであった。それもやむを得ない。おそるべき妖力《ようりょく》を持つあの霊魂第十号をうち倒して、隆夫が損傷《そんしょう》なく無事に元の肉体をとり戻すためには、どうしてもやり遂げなくてはならない仕事だった。
 親子は連れ立って、なつかしいわが家にはいった。それは日が暮れて間もなくのことであった。
 隆夫の母は、おどろきとよろこびで、気絶《きぜつ》しそうになったくらいだ。しかしそれは、隆夫を自分のふところへとり
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