博士ただひとり……いやもう一人の人物がいた。
「君は」
 と、治明博士は、横に立っていた褐色《かっしょく》の皮膚を持った痩《や》せた男へおどろきの目を向けた。どこかで見た顔ではあるが……。
「お父さん、ぼくですよ。隆夫ですよ。ぼくは、さっきから、このとおりロザレの肉体を貸してもらっているのです。これで元気になりましたから、早く戻ることにしようよ」
 と、そのミイラの如き人物は、博士に向ってなつかしげに話しかけたのであった。


   帰国《きこく》


 親子は、その後、バリ港を船で離れることができた。その船はノールウェイの汽船で、インドへ行くものだった。
 コロンボで、船を下りなくてはならなかった。そしてそこで、更に東へ向う便船を探しあてることが必要だった。親子は、慣《な》れない土地で、新しい苦労を重ねた。
 この二人を、ほんとの親子だと気のつく者はなかった。そうであろう、治明博士《はるあきはかせ》の方は誰が見でも中年の東洋人《とうようじん》であるのに対し、ロザレの肉体を借用している隆夫の方は、青い目玉がひどく落ちこみ、鼻は高くて山の背のように見え、その下にすぐ唇があって、やせひから
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