ふと眼がさめた。
が、まだ睡くてたまらない。ぴったりくっついた瞼《まぶた》をむりやりにあけて、夜光の腕時計を見た。
午前三時だった。すると、あれから一時間半くらい睡ったわけだ。まだ猛烈に睡い。
その睡いなかに、隆夫はふとぼそぼそと話し合っている人声を聞きとがめた。それは近くで話している。
「……さあ、君はそういうが、万一失敗したときには、どうするんだね」
「失敗したときは、失敗したときのことですわ。たとえ失敗しても、今のようなおもしろくない境遇《きょうぐう》にくらべて、この上大した苦痛が加わるわけでもありませんものね」
女の声であった。
男と女の話声だった。ゆっくりゆっくり、ぼそぼそと語り合っている。声は若いが、その語る調子は、ふけた老人のように低い空虚なものであった。
隆夫はだんだん目がさめて来た。
「……そういう冒険は、よした方がいいと思うね。君は、僕がひっこみ思案だと軽蔑《けいべつ》するだろう。しかしね、僕は今までに君のような冒険を試みて、それに失敗して、ひどい目に会った連中のことをたくさん知っているのだ。彼らは、失敗してこっちへ戻ってくるともうすっかり気力《きりょ
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