げてしまったのだ。
 お母さんは、ひとり子の隆夫《たかお》少年に昔から甘《あま》くもあったが、また隆夫少年ひとりをたよりに、さびしく暮して行かねばならない気の毒な婦人でもあった。
 というのは、隆夫少年の父親である一畑治明《いちはたはるあき》博士は、ヨーロッパの戦乱地でその消息《しょうそく》をたち、このところ四カ年にわたって行方不明のままでいるのだ。あらゆる手はつくしたが、治明博士の噂のかけらも、はいらなかった。もうあきらめた方がいいだろうという親るいの数がだんだんふえて来た。心細さの中に、隆夫の母親は、隆夫少年ひとりをたよりにしているのだ。
 なお、治明博士は生物学者だった。日本にはない藻類《もるい》を採取研究のためにヨーロッパを歩いているうちに、鉄火《てっか》の雨にうたれてしまったものらしい。
 博士の細胞から発生した――というと、へんないい方だが――その子、隆夫は、やはり父親に似て、小さいときから自然科学に対して深い興味を持っていた。そしてそれがこの二三年、もっぱら電波に集中しているのだった。
 隆夫は、学校から帰ってくると、あとの時間を出来るだけ多く、この小屋で送った。
 夜ふ
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