としても起り得ることじゃないかネ」
「課長《あなた》の頓死といわれるのは図《はか》らずして自分だけで偶然の死を招いたという意味でしょうが、しかしそれに死ぬような原因を他《よそ》から与えた者があれば、それはやはり他殺なんですからネ」
「すると君は、まだ何か知っているというんだネ」
「もう一つだけですが、知っていますよ。それはあの手提《バッグ》の中にある一つの燐寸《マッチ》です。それは時計印のごく普通のものですがネ。たいへん似あわしからぬことがあるんです」
「なに、燐寸が……」
 課長はツカツカと屍体の傍により、傍に落ちていた手提をもって来た。そして中を開けると、なるほど時計印の燐寸箱が入っていた。
「これは至極《しごく》普通の燐寸だネ。なにも変ったところが認められん」
「そうでしょうかしら」と帆村は首を振って「私はたいへん不思議です。第一このような不恰好な燐寸箱が、そのようなスマートな手提に入っていることが不思議であり、第二には燐寸の赤燐《せきりん》の表面は新しくて一度も擦《す》った痕《あと》がないのに、その中身を見ると燐寸の数は半分ぐらいになっているのです。どうです、不思議じゃありませ
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