ないだろう。万一怪しまれそうになっても、何喰わぬ顔をして検閲官の前で、火を点けると薬も共に燃えて跡方もなくなってしまう。実に巧妙な隠し場所だといわなければならない。
帆村はあの燐寸が、銀座の鋪道に斃《たお》れた婦人の身辺から発見されたとき、それが不可解なる唯一の材料だった点からして、油断をなさず「赤毛のゴリラ」が小猿を使って燐寸函の奪還をはかったよりも前にひそかにその函の中から数本の燐寸の棒をポケットに滑りこませて置いたのだった。もしあのとき、そこに気がつかなかったとしたら、今日密書の上に書かれた秘密文字を読みとることは絶対に困難だったろう。随《したが》ってR事件も遂にその真相を知られないでしまい、後へ行って大椿事《だいちんじ》を迎えるに及んで始めてあれがその椿事の前奏曲だったかと思いあたるようなことになったかも知れない。それでは遺憾もまた甚《はなは》だしいといわなければならない。――
密書紙上の秘密文字は、漸《ようや》く緑色もかなり濃く浮きだして来た。帆村はそこに書かれてある文字を拾って読みだしたが、彼の顔は見る見る紅潮して来たのだった。隠しインキは、そもそも何を語っていたのであ
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