を一つ借りて、それに少量の水をたらし、その水の中へ三本の燐寸の頭を漬けた。
 暫《しばら》くすると、茶碗の水は薄《うっ》すらと黄色に変った。そこで燐寸の頭を取出し、そこに残った淡黄色《たんこうしょく》の水をいと興深げに眺めていたが、こんどは何思ったものかその水を指先につけて、卓子《テーブル》の上に伸べてあった漫画の水兵の紙面へポタポタとたらし、それをすらすらと拡げていった。かくすること両三度、――彼は息づまる思いでその紙面を穴の明くほどみつめていた。
「おお――」
 と、そのとき彼は嬉しさのあまり、歓声をあげたのだった。紙面にはあまり顕著《けんちょ》ではないが、なにか緑色の文字らしきものがポーッと浮かんで来たのだった。ああ、これこそ隠しインキによる暗号文だった! すると問題の燐寸の頭には密かに隠しインキの現像薬が練りこんであったといえる。密偵団が死力をつくして燐寸の棒の奪還をはかったわけもわかる。死の制裁をもって責任者を処罰したわけもわかる。それにしてもうまいところへ隠しインキの現像薬を隠したものである。燐寸の頭なのだ。燐寸なんてどこにも転がっているもので、これを持っていても怪しむ者は
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