て半ば退屈を覚えて、いつも愛用の細身の洋杖《ステッキ》をふりふり散歩をしていたのだった。
鋪道の上で、彼にすれ交《か》う人たちは、いずれも若く、そして美しかった。男よりも、どっちかというと若い女性が多かった。溌溂《はつらつ》たる令嬢、麗《やさ》しい若奥様、四、五人づれで喋《しゃべ》ってゆく女学生、どこかで逢ったことのある女給、急ぎ足のダンサーなどと、どっちを向いても薔薇《ばら》の花園に踏みこんでいるような気がした。しかしよもやその日花園の中で彼女等のうちの一人が死んでゆくところを目撃しようとは考えていなかった。
彼は銀座の四つ角を青信号の間に渡って、京橋の方に向って歩いているところだった。もう半丁《はんちょう》もゆけば喫茶ギボンがあるので、そこによって温い紅茶をのもうと思った。そして眼をあげてチラリとその方角を眺めた。丁度そのときだった。彼は一人の洋装の麗人が喫茶ギボンの飾窓《ショウインドウ》の前で立ち停《どま》ったままスローモーションの操《あやつ》り人形《にんぎょう》のように上体をフラリフラリと動かしているのを認めた。
「オヤ、どうしたんだろう?」
きっと練兵場の近くの女のひと
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