な出来ごとから、その年の十月、この怪計画に関係のある一部分が始めて我が官憲に知られるに至った。これがR事件の最初の一頁《ページ》なのであるが、それは白昼華やかな銀座街の鋪道《ほどう》の上で起った妙齢《みょうれい》の婦人の怪死事件から始まる。そして若《も》しその怪死事件の現場にかの有名な青年探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》が居合わさなかったとしたら、これは舞台が華やかな銀座で演じられたというだけのことで結局|極《ご》く普通の死亡事件として見遁《みのが》されてしまったことであろう。一体帆村探偵は何を証拠として、その犯罪の裏にひそんでいた怪奇性を看破したのであろうか。実にそれはたった一個のマッチの箱からだったといえば、誰しも驚くにちがいない。筆者はこの辺で長い前置きを停《や》めて、まず白昼の銀座街を振り出しのR事件第一景について筆をすすめてゆこうと思う。
それは爽《さわ》やかな秋晴れの日のことだった。詳しくいえば十月一日の午後三時ごろのことだったが、青年探偵帆村荘六は銀座の鋪道の上を、靴音も軽く歩いていた。丁度《ちょうど》彼は永い間かかった或る仕事を片づけた直後で、半《なか》ば興奮し、そし
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