列強としても某国を人道上の大敵として即時に共同戦線を張らなければならないことになるのは必定《ひつじょう》であって結局某国としてはこの怪計画に関し極度に秘密性を保つ必要があったのである。
 一体その怪計画というのはどんなことだったか? それはいま読者諸君の何人といえども恐らく夢想だにされないであろうと思うような実に戦慄《せんりつ》すべき陰謀だった。いずれ順序を追って述べてゆくうちにその怪計画の全貌が分る日が来るだろうが、そのときにはきっと筆者《わたくし》の今いった言葉の偽《いつわ》りではなかったことを知っていただけるであろう。
 某国政府当局は、国運を賭《か》けたこの怪計画のために、特によりすぐった特務機関隊を編成して、丁度《ちょうど》一年前からわが国に潜入させたのだった。その計画の重大性からいっても、また派遣特務員の信頼するに足る技倆《ぎりょう》からいっても、この事件は目的を達するまで遂に全く秘密裡《ひみつり》におかれるのではないかと思われたのであるけれども、世の中のことというものはなかなかうまくゆかないものであって、運命の神のいたずらとでも云おうか偶然が作った極《ご》く瑣細《ささい》
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