送ったというのだな」
「そうです。私は確信しています。だから日本人の手に、あのマッチ一本だに渡っていないのです。ですから本員の除名は許していただきたいと思います」
「イヤ宣告に容喙《ようかい》することは許さぬ。――とにかくマッチが日本人の手に残らなかったのは何よりである。それがもし調べられたりすると、われわれが重大使命を果《はた》す上に一頓挫《いちとんざ》を来たすことになる。不幸中の幸だったといわなければならん。――では『赤毛のゴリラ』に宣告を与える。一同起立――」
 十数名の黒衣の人物は一せいに起立した。「赤毛のゴリラ」の顔は見る見る土のように色褪《いろあ》せていった。ああ生命は風前の灯《ともしび》である。
「宣告、――君は『狐の巣』の監督を怠《おこた》り、重大なる材料を流出させたる失敗を贖《あがな》うことを命ずる。忠勇なる『赤毛のゴリラ』よ。地下に瞑《めい》……」瞑せよ――と云いかけたその刹那《せつな》の出来ごとだったが、突然どこからともなく一匹の鼠《ねずみ》が現れて、チョロチョロと首領の方へ走りだした。
「オヤッ――」
 と叫んだ途端に、「赤毛のゴリラ」の懐《ふところ》からポケッ
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