下が帆村を目の敵にして怒鳴りつけたことを思い出して、ちょっと顔を赧《あか》くした。
「とにかく怪しい奴を逃がしてしまっては何にもならんじゃないか。気をつけてくれなきゃあ、――」
「ああ、その怪紳士の行方《ゆくえ》なら分りますよ」
「なんだって?」と大江山は唖然《あぜん》として、帆村の顔を穴の明くほど見詰めた。そして、やがて、
「どうも君は意地が悪い。その方を早くいって呉れなくちゃ困るね。一体どこへ逃げたんだネ」
「さあ、私はまだ知らないんですが、間もなくハッキリ分りますよ」
「え、え、え、え?――」
流石の大江山課長も今度は朱盆《しゅぼん》のように真赤になって、声もなく、ただ苦し気に喘《あえ》ぐばかりだった。
奇怪なる発狂者
「帆村君、君は本官《ぼく》を揶揄《からか》うつもりか。そこにじっと立っていて、なぜ、あの怪紳士の行方が分るというのだ」
大江山捜査課長は真剣に色をなして、帆村に詰めよった。さあ一大事……。
「冗談じゃない、本当なのですよ、大江山さん」と、帆村は彼の癖で長くもない頤《あご》の先を指で摘《つ》まみながらいった。「これは雁金検事さんにも聞いていただきた
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