。帆村は別に驚いた顔もしていなかった。
「やっぱり、そうでしたか」
「そうだったとは……。君は何か心当りがあるのかネ」
「イヤさっき向うの飾窓《ショウインドウ》のところに、一人の身体《からだ》の大きな上品な紳士が、一匹のポケット猿を抱いて立ってみていましたがネ。そのうちにどうした機勢《はずみ》かそのポケット猿がヒラリと下に飛び下りて逃げだしたんです。そしてそこにある婦人の屍体の上をチョロチョロと渡ってゆくので警官が驚いて追払《おいはら》おうとすると、そこへ紳士が飛び出していって素早く捕えて鄭重《ていちょう》に詫言《わびごと》をいって猿を連れてゆきました。その紳士が曲者《くせもの》だったんですね」
「ナニ曲者だった?」課長は噛《か》みつくように叫んだ。
「そんならそうと、何故《なぜ》君は云わないんだ。そいつが掏摸《スリ》の名人かなんかで、猿を抱きあげるとみせて、手提《バッグ》から問題の燐寸を掏《す》っていったに違いない――」
「でも大江山さん、沢山《たくさん》の貴方の部下が警戒していなさるのですものネ。私が申したんじゃお気に障《さわ》ることは分っていますからネ」
 大江山は、昔から彼の部
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