ろうか?


   疑問の第二の海峡


 帆村探偵が愕《おどろ》いたのも無理がない。そこに浮かび出た緑色の文字は、実に次のような意味の文句を綴《つづ》ってあった。
「……ボゴビ、ラザレフ岬。四日完了。……総攻撃開始は十日の予定、それまでにR区各員は一切《いっさい》の準備を終了し置くを要す」
 ボゴビ、ラザレフ岬とは何処《どこ》を指していうのか。また何を完了するというのか?
 総攻撃開始とは、何処を攻めるというのであるか?
 R区とは何処を云っているのか?
 各員は何を準備するのであるか?
 何のことだか、ハッキリは分らないけれど、帝都に巣喰う密偵団に準備をしろという点から考えると、これは何かわが日本帝国に関係のあることはいうまでもない。もっと深く知るためには、ボゴビ、ラザレフ岬という地名を知らねばならない。
 探偵帆村荘六は、憩《いこ》う遑《いとま》もなく、それからまた地名辞典の頁《ページ》を忙しく繰った。すると、果然あった、あった。ラザレフ岬にボゴビ町! ボゴビ町というのは、北樺太《きたからふと》の西岸にある小さな町の名だった。ラザレフ岬というのは、間宮《まみや》海峡をへだてて其の対岸にあたる沿海県の岬の名で、その間の距離は間宮海峡の中では一番狭いところだ。そしてニコライエフスクの南方約百キロの地点にあたる! この狭い海峡を距てて向いあった両地点に何が完了したというのか?
「はアて?」と帆村は頤《あご》を指先で強く圧《お》した。これは彼の癖で、なにか六《むず》ヶ敷《し》いことにぶつかったとき、それを解くためには是非これをやらないと智慧袋の口が開かない。
「デジネフ岬とプリンス・オヴ・ウェールス岬も、ごく狭い海峡を距てて向いあった両地点である。ところが、いま問題のボゴビとラザレフ岬も同じような地点である。これはどうしたというのか。地勢が似かよっているのは偶然なのだろうか、それともそこに深い意味があるのだろうか?」
 もちろん、これは偶然の暗号ではない。共通した地勢には、共通した問題が横たわっていると考えなければならない。すると、共通した問題とは何であるか、それこそはこの暗号の奥に秘められている大秘密でもあり、また敵の密偵長「右足のない梟《ふくろう》」が身命《しんめい》を賭《と》して達成しようとしている大使命でなければならない!
 さるにても、「ボゴビ、ラザレフ岬、
前へ 次へ
全39ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング