ら考えた。――
「うん、そうだ。……こいつだッ」
何を思ったか、彼は下に着ていた毛糸のジャケツをベリベリと裂いた。そして毛糸の端を手ぐって、ドンドン糸を解いていった。それを長くして、二本合わせると、手早く撚《よ》りあわせた。そしてポケットからナイフを取出すと、その刃を出し、手で握る方についている環《わ》に、毛糸の端をしっかりと結えた。そうして置いて、ナイフを格子の間からソロリソロリと下に下した。
毛糸を伸ばすと、ナイフはスルスルと下に降りて、遂に手紙の上に達した。
「さあ、これからが問題だ!」
そこで帆村は、釣りでもするような調子で毛糸をちょっと手繰《たぐ》って置いて、パッと離した。ナイフは自分の重味でゴトンと下に落ちて机の上を刺した。それを見ると彼は、注意して毛糸を上に引張った。――果然、机の上の手紙はナイフの尖《さき》に突き刺されたまま、静かに上にのぼって来た。
手紙はクルクルと廻りながら、とうとう鉄格子の近くまで上って来た。――彼は指を格子の中へ出来るだけ深くさしこんだ。二本の指先が辛うじて手紙の端を圧《おさ》えた。
「占めた!」
思わず指先が震えだした。途端に封筒がスルリと脱けて下に舞い落ちた。呀《あ》ッと叫ぶ余裕もない。指先には四つ折にした手紙があるのだ。彼は天佑《てんゆう》を祈りながら指先に力を籠めて静かに引張りあげた。遂に手紙の端が格子の上に出た。――もう大丈夫!
摘《つま》み上げた手紙を、取る手遅しと開いてみれば、こは如何《いか》に、そこには唯《ただ》、水兵が煙草を吸っているような漫画が書き散らしてあるばかりだった。途端に下の部屋にドヤドヤと荒々しい靴の音がした。
危機一髪
帆村が空気孔から見下ろしているとも知らず、突然下の部屋に現われたのは、例の密偵団の覆面をした二人の怪人物だった。その一人は首領「右足のない梟《ふくろう》」であることは確かだった。もう一人の人物は、何物とも知れない。
「よく来てくれたねえ」
といったのは首領だった。
「君の非常警報を受信したので、すぐに軽飛行機で高度三千メートルをとって駈けつけてきた。一体どうしたのだ」
といったのは、別の人物だった。
この話から考えると、首領は遂に警報を他の密偵区へ発したものらしい。それで召喚された密偵の一人が早速《さっそく》駈けつけたので、「右足のない梟」が迎え
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