大図譜! 流石《さすが》の帆村探偵も、火葬炉の中に入れられたように、全身がジリジリと灼熱してくるのを覚えたのであった。
「さあ、――」と帆村は首領の背中を銃口で押して威嚇《いかく》した。「この図譜が出て来たからには、もう観念してよいだろう。こいつの実行期は何日《いつ》だ、それを云ってみたまえ」
帆村は、さも計画を熟知しているような顔をして、この機密に攀《よ》じのぼるための何かの足掛りを得たいつもりだった。
「はッはッはッ」と「右足のない梟」は太々《ふてぶて》しく笑って、「儂《わし》に聞くことはないでしょう。御覧のとおりですから、勝手にお読みになったがいいでしょう」
読めというのか。ではこの図譜の上に、すべてのことが書かれているのだ。――だが読めといっても、この花鳥乱れるの図を何と読んでいいのだろう。
「フフフフ、どうです。お分りかナ。――」
と首領は悪意を笑声に盛って投げつけた。それを聞くと帆村はもう耐えられなくなった。
「――分らなくて、どうするものか!」
と彼は叫んだ。自暴的な自殺的な言葉を吐くのが、彼のよくない病癖だったが、それを喚き散らすと、いつの場合も反射的に天来の霊感が浮んでくるのであった。今の場合もそうだった。
そうだもう一つの押釦《おしぼたん》があった。
その押釦を押しさえすればいいのだ。心配は押してみてから後でもよい!
帆村はつと[#「つと」に傍点]手を伸べて、首領席についているもう一つの押釦をグイと押した。すると、果然その反応は起った。
図譜に向いあった壁面に、一つの穴のようなものがポカリと明くと、その中からサッと赤色の光線が迸《ほとばし》ると見るより早く、かの大図譜の上に投げ掛った。
と。――
なんという不思議! 大図譜の上に乱れ飛んでいた花鳥がサッと姿を消して、その代りに図譜の上には大きな地図が現れた。地図! 地図! 青色の大地図だった。そして意外にも極東の大地図だった。日本を中心として、右には米大陸の西岸が見え、上には北氷洋が、西には印度《インド》の全体が、そして下には遥かに濠洲《ごうしゅう》が見えている。その地図の上には、ところどころに太い青線で妙な標《しるし》がついていた。――ああ矢張り密偵団の陰謀は、この大地図の上に印せられてあったのだ! 帆村の興奮は、その極に達した。
が、そこに恐ろしい危機があった。帆村の警戒
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