ず》れかである。それは実に重大なる事態の発生を意味する。
サッ――と、一同は我を争って覆面を脱いだ。現れ出でたる思いがけないその素顔!
「何者だ、覆面をとらない奴は?」
なるほど一番遠い端にいる会員の一人はただ独り覆面をとろうとしない。それは「赤毛のゴリラ」に何か手渡した男だった。首領はピタリとその団員の胸にピストルを擬《ぎ》した。
覆面を取らぬ団員の生命は風前の灯にひとしかった。あわや第三の犠牲となって床の上を鮮血《せんけつ》に汚《よご》すかと思われたその刹那!
「うむ――」
と一声――かの団員の気合がかかると同時に、その右手がサッと宙にあがると見るやなにか黒い塊がピューッと唸《うな》りを生じて、首領「右足のない梟」の面上目懸けて飛んでいった。
「呀《あ》ッ――」
と叫んだのが先だったか、ドーンというピストル[#「ピストル」は底本では「ピルトル」]の音が先だったか、とにかく首領は素早く背を沈めた。
と、それを飛び越えるようにして円弧を描いていった黒塊は、行手にある頑丈な壁にぶつかって、
ガガーン!
と一大爆音をあげ、真白な煙がまるで数千の糸を四方八方にまきちらしたように拡がった。
「曲者《くせもの》! 偽団員だ!」
「遁《に》がすな、殺してしまえ!」
覆面のない十数名の団員はてんでに喚《わめ》きながら、怪しき黒影の上に殺到していったが、あらあら不思議、どうした訳か分らないが、彼等は拳《こぶし》を勢いよくふりあげたのはよいが云いあわせたように、よろよろと蹣跚《よろめ》き、まるで骨を抜きとられたかのように、ドッと床の上に崩折れてしまった。途端《とたん》に鼻粘膜《びねんまく》に異様な鋭い臭気を感じたのだった。毒瓦斯《どくガス》!――もう遅い。
「ざまを見ろ!」と覆面を取らぬ怪人は、ふくんだような声で叫んだが、
「あッ、こいつは失敗《しま》った」といって飛び出していった。そこにたしかに首領が立っていたと思ったのに、何処《どこ》へ行ったか、首領の姿がなかった。床の上には丸い鉄扉《てっぴ》が儼然《げんぜん》と閉じていて、蹴っても踏みつけても開こうとはしない。
「ちぇッ――逃がしたかッ」
流石《さすが》は首領であった。咄嗟《とっさ》の場合に、その場を脱れたものらしかった。
「この上は『赤毛のゴリラ』を頼むより外はない」
彼はスルスルと横に匍《は》って、奥の
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