後の祭だ。あの慾深親父も、今更《いまさら》どうしようたって仕方がないだろう」
「いや、あの親父も相当なもので、町長の高村さんに頼みこんで、四郎との仲をこの際どうにか取持ってくれと泣きついているそうだ」
「町長は、どういっとる?」
「どういっとるも、こういっとるもない。高村町長はお里と英三の婚礼の媒酌人じゃ。四郎の前に出るには、ひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]のお面でも被ってでなければ出られまい」
 そのひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]の面が入用だといわれた高村町長が、向うからお面もつけずに畦道をやって来たものだから、水田に草むしりをしていた人たちは吃驚《びっくり》した。しかもその後には、凱旋将軍の北鳴四郎と、松屋松吉とが従っていたから、その驚きは二重三重になった。
 町長は白い麻の絣《かすり》に、同じく麻の鼠色した袴をはき、ニコニコした笑顔を、うしろにふりむけつつ、
「……この町から博士が出るなんて、考えても見なかった名誉なことじゃ。わしはなんなりと四郎……君のために便宜《べんぎ》を図るを厭《いと》わぬつもりじゃ。遠慮なく、申出て下され」
「いや私が珍しく帰って来たからといって
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