ものわら》いの道楽者松屋松吉が、北鳴四郎の取巻きとなって、どこから金を手に入れたか、おんぼろの衣裳を何処《どこ》かへやり、法被姿《はっぴすがた》ながら上から下まで垢ぬけのしたサッパリした仕事着に生れ代ったようになったことだった。
 町の人は、寄ると触《さわ》ると、二人の噂をしあった。
「おう、あの北鳴四郎は、すごい財産を作ってなア、そしていま博士論文を書いているということだア」
「どうも豪《えら》いことだのう。あいつは内気だったが、どこか悧巧《りこう》なところがあると思ったよ。それにしても、四郎はあの爪弾《つまはじ》きの松吉を莫迦に信用しているらしいが、今に松吉の悪心に引懸って、財産も何も滅茶滅茶《めっちゃめっちゃ》にされちまうぞ」
「瀬下《せした》の嫁ッ子は、どう考えているかなア」
「ああ、お里《さと》のことかネ。……お里坊も考えるだろうな。四郎があんなに立身出世をするなら、英三《えいぞう》のところへなんか嫁にゆくのでなかったと……」
「フフン、そんなことはお里の親の方が考えて、今になって失敗《しま》ったと思ってるよ。こうと知ったらお里を四郎から引放さんで置くんじゃったとナ」
「もう
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