がある。お前さんばかりを頼ってきたのだ」
「おお、そうか。では、ゆっくり話を聞くとしよう」といって、俄《にわ》かに傍の連れに心づき、その風体のよくない男を脇に呼ぶと、北鳴には憚《はばか》るような低い声で、なにかボソボソ囁いた。対手《あいて》の男はどうしたわけか不服そうであったが、やがて松吉が、やや声を荒らげ、
「ヤイ化助《ばけすけ》。これだけ云って分らなきゃ、どうなりと手前の勝手にしろ」
と肩を聳《そびや》かせた。すると化助といわれた男は、ギロりと白い眼を剥《む》いたまま、道の真中に転がっていた竹竿を拾いあげ、それを肩に担《かつ》ぐと、もう一度松吉の方をジロリと睨《にら》んで、それからクルッと廻れ右をして、元来た道へトボトボと帰っていった。
「松さん。お前さんたち、今夜なにか用事があったんだろう」
「イヤなに、大した用事でもないんだ……」
そういった松吉は、気持が悪いほど、いやに朗かな面持をしていた。
2
翌日から、比野町では、大評判が立った。
一つは、七年前に町を出ていった北鳴少年が、ものすごい出世をして紳士になって帰郷してきたこと。もう一つは、村での物嗤《
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