なかった。
果して彼は目的地点で、何を発見したろうか。
無残なるお里と、その夫英三の惨死体だったであろうか?
いや、そうではなかった。それは全く思いがけない懐しい妹の笑顔だった。もちろん英三も共に無事だった。悪い籤《くじ》を引き当てたのは、実にこの奇抜な殺人計画をたてた悪人北鳴四郎があるばかりだった。兄弟は、夢とばかりに抱きあって、悦びにあふれてくる泪《なみだ》を、せきとめかねた。
それにしても、なぜ北鳴四郎は雷撃にあって死んだのだろう。
それには恐ろしい因縁ばなしがあった。彼は、その攀じのぼっていた高櫓の避雷針が、完全に避雷の役目を果たして呉れることと思い違いをしていたのだった。もちろんその櫓を建てたときには、避雷装置は十分完全なものだった。しかしあの豪雨の前日になって、その二基の避雷装置は急に不完全なものと成り下ったのだった。それは何故だったろう?
それは化助の仕業に外ならなかった。しかしそれをそうさせたのは、この櫓を組んだ松屋松吉だった。彼は神経性になってイライラしているとき、頻々《ひんぴん》と化助の金ねだりに逢って、遂に思いあまった末、あの櫓の避雷針と大地とを繋ぐ長
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