ッカリ握りしめていた。
「ああ、妹たち夫婦は、この雷鳴の中に、もう死んだに違いない」彼は呻《うめ》くように云った。「北鳴四郎というやつは、八つ裂にしてもあき足らぬ悪漢だ。彼はおれの書いた落雷の研究報告を悪用して、あの恐るべき殺人法を思いついたのだ。目的物の近傍に、高い櫓を二基組み、その上に避雷針を建てる。すると近づいた雷雲は、もちろん二基の避雷針の上にも落ちるが、丁度二基の中間にある目的物の上にも落ちる。その目的物に避雷装置があればいいが、もしそれがなければ恐ろしい落雷が起る! それはおれの研究の逆用じゃないか! そんな恐ろしい計画のもとに、両親が殺されたとは、この手紙を見るまで、どうして想像ができたろう。いや慨《なげ》くのは後でもいい。今はたった一人の愛すべき妹とその夫が、全く同じ手で殺害されようとしているのだ。……ああ、おれはもう、この雷鳴の済むまで待ってなどいられないんだッ」
 そう叫ぶとともに、雅彦は大雷雨の中に、豹のように躍りだしていった。彼は自分の身にふりかかる危険などは考えていられなかった。ただ一途に、愛すべきたった一人の同胞《はらから》であるお里を救うの外、なんの余念も
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